最近Facebookを見る機会が増えてしまったらしく、なんかジャンキー気味になってきたなと後悔している。今日もまたなんか奇妙な投稿を発見してしまった。ただその内容はよーわからんものだったので、まんまと投稿者の策略に嵌ることとしようと思った。

そろそろ中華正月らしく、Chinese New Year coming already lehとシングリッシュからはじまり季節と懐かしさを感じさせた。ちなみにこの記事ではシングリッシュに関する解説は行わないものとする!


 それで事の顛末が気になり、調べてみたところ、台湾で訓練をしたシンガポール陸軍のTerrex(装甲車くらいに考えとこうか…)が台湾の高雄からシンガポールに帰る際に、経由した香港の税関で止められてしまったというものだ。本体Terrexは香港で船の甲板から降りる予定は無かったという話もある。

 シンガポールは都市国家であり、訓練をするために、台湾の他にもオーストラリアやニュージーランド、タイや台湾で訓練を行っている。特に中華民国(台湾)に関しては、訓練に対する協力関係の歴史が古く、その始まりはシンガポールの初代と蒋経国の関係がよかったからだと言われており、星光計画という協力関係がある。もちろん中国としては良くは思っていないだろうし、アメリカ軍がシンガポールの軍港を使えるという覚書を締結していることにも不満があるだろう。

 この件についてもっと調べてみたところ、そのTerrexは民間の船(APL; American President Lines)でコンテナに積み込まれ、South China Morning PostによるとAPLが香港の法律が要求している戦車や軍用車(および爆発物?)を輸送するのに必要なライセンスを取ってなかったために、どうやら止まってしまっているらしい。(武器の密輸を疑われてるって話もある。もし密輸なら750万円の罰金、懲役もあるようだ)

 ただ船は目的地にたどり着くまでにいくつかの港を経由しているのが普通で、今回のTerrexは本来香港で船から降ろされる予定は無かったが(高雄の次にシンガポールに寄港する船に乗るはずだったが…ということか?)、「なんらかの理由」で甲板から香港の地へ降ろされてしまったらしい。(たぶんTransitだろうけど、高雄からシンガポールに直通する船もある)

 これについてシンガポール政府は、シンガポール政府の資産(Terrex)を直ちに返還するように求めているが、香港政府はAPLに捜査(Investigation)に入っているため、未だにTerrexは香港にあるという。

 いつもシンガポールは商用船でTerrexを台湾に輸送しており、恐らく止められたのは初めてなので、かなり驚いているのではないかと思われる。香港は公式になぜTerrexが香港で止められているのかということについては発表しておらず、Press Releaseを見ても詳細は載っていなかった。

 シンガポールの防衛大臣(Minister of Defence)とシンガポールメディアは、香港が自由港であること、Terrexが国家の資産であることによって、それが民間の船舶で運ばれていても主権免除によって守られると主張している。ここがこの問題の難しいところで、私は香港政府はこの問題をあくまで船舶会社とそのShipmentと香港税関の間の問題だとしたいと考えていると思う。主権免除は英語でprinciple of sovereign immunity と言って、例文としてStraits Timesを引用すると、

Dr Ng explained that the vehicles are the property of the Singapore Government and protected by international law. Under the principle of sovereign immunity, property belonging to a country cannot be seized or forfeited. This principle is well established under international law and also the law of Hong Kong, a Special Administrative Region of China, Dr Ng said.

ということになる。要するに国家の所有物は拿捕したり、没収したりできませんということだ。

そして、しかしながら、シンガポール軍のTerrexは屋内(つまり衛星写真に写らないところ)に移動させられたらしい。そして、Global times を筆頭とするメディアで、このTerrexを解体しようという論説まで出る始末だったが、シンガポールの最先端技術が詰まったTerrexを屋内でイジイジしちゃってんのか、部品を引き抜いてるのかとか、そういうことはよくわからない。

ちなみにこの主権免除だけど、

絶対免除主義(absolute sovereign immunity)といって、国家の活動は全て裁判権から除外されるという立場と

制限免除主義(Restrictive sovereign immunity)といって、国家の活動を権力行為か職務行為かに分けて、権力行為のみ裁判権から除外される

ってのが大きく2つあって、いろんな国でどっちを取るかはバラバラで、その国の選択に従って法整備がなされると思う。ちなみに香港には外交権が無く、中国は絶対免除主義を取っている(らしい)

そもそもなんで主権免除なのかというと、時は19世紀に遡って王政時代、諸侯のそれぞれの権威は平等に尊重されるべきだという法律的な考え方(legal doctrine)から来ているようで、とある国の主権(sovereign power)がほかの国の主権を侵すことはあってはならないという原則と、国家が民事訴訟や刑事訴訟に遭うということはないし、不法行為(legal wrong)を犯すことはできないという考え方から、国家は他の国の管轄権、裁判権(jurisdiction)から除外されるという考え方で、これが絶対免除主義という。

しかしながら、近年は国家も営業活動をするし、いろいろな商取引だってするようになる。政府系企業がある国だって沢山あるし、たまに墜落とかする航空会社も国営の会社も少なくないし、そういう時に国家として、賠償から主権免除される?というと、やっぱりそうはならないんじゃないかなと思う。(すげーテキトーな説明ですまん。) なので、権威行為は免除するけど、職務行為は免除しないよというのが制限免除主義

(少なくとも20分くらいしか考えてないから間違ったらごめんね)

要するにこの主権免除というのは中世の国家が世界平和を保つための知恵であり、そのために国家と国家の関係は平等であり、その権威は尊重されるべきで、国家は他の国家の裁判権を侵害することができないというLegal doctrineに基づくわけだ。こういうのはラテン語で;Par in parem non habet imperiumという。

つまりシンガポールの資産を香港の裁判権だろうが中国の裁判権だろうが、その下に置くことはできないということにはならないだろうか?とシンガポールは言っているわけだ。で、香港は民間の会社であるAPLを調べているし、民間の会社が法に服さなくていいわけじゃないだろ?って言っているのだと私は考えている。

どっちにしろTerrexはいずれにしろイジイジされてはならないと考えるのは自然だ。

中国みたいにデカくて核兵器持ってる国も小さな都市国家のシンガポールも平等だねっていう法の下の平等は実現される「べきだ」ということだし、それが中世からの知恵だった。ただ、中国と東南アジアの何か国かが南シナ海問題で争い、中国の主張が認められた後、中国は何をしたのだろうかということを考えると、絶対的な裁定者がいない分、「法の下の平等」というのは語弊があるかもしれないし、今だとひょっとしたら、モラルの問題(まで小さいものではないと思うけど、そう)なのかもしれない。

 あと、もう少し怖いことを言うと、この主権免除が生まれたのがヨーロッパで、そのヨーロッパでは戦争が絶えなかった。そして国際法の他に、戦時国際法(law of war)というのも存在した、というか今も存在するだろう。その中には「非戦闘員の保護」も謳われている。しかしながら、私の行ったオーストラリアのタスマニアでは先住民は絶滅させられていたり、アフリカでも虐殺や黒人奴隷の事例がある通り、それらの単純な事実から国際法が適応されるためには、おそらく「国家として認められること」というのが重要な要素だったのだと考えられる。しかし、第2次世界大戦後の世界では世界のおおよそが主権国(Sovereign state)となった。しかしながら、その1945年の後の1949年、大戦の戦勝国の1つによってチベット王国は悲劇と共に地図上からその姿を見ることができなくなった。

 「國」の文字の中の「或」という文字が武器を持って守る一定の区域を意味するように、アジアで「國」と認められるにはそれなりの強い力が必要なのかもしれない。その分ラテン語とローマ法を共有していたヨーロッパよりも厳しいし、国際法発祥の地と中国の考え方は大いに違うのかもしれない。

 私からすれば中国というのはこの間まで、領空と防空識別圏の区別がつかないくらいには、軍でさえ国際法に疎い人たちが多いという印象だった。その一方で、中国は国際法、主に国家主権についてはよく知っている国だと思う。例を挙げれば一つの中国の原則を盾に国交を結ばないとか、それを認めさせるために航空会社に圧力を掛けて、台湾に就航している「民間の」航空会社を中国に乗り入れさせないとか、中華民国の中華航空に対しても、香港返還後は「国旗を機体にあしらった機体で乗り入れるな」と香港が自由港にも関わらず圧力を掛けたりした。

 国際法は世界の安定を保つために必要な枠組みの一つになっていることは間違いないが、この件や、トランプ政権のメキシコに壁とかの自由貿易協定に反する動きや、中東問題でも見られる通り、最近その脆さが露呈してきたかのように思う。しかしながら、国際社会としてもこういう小さなところから国際法の枠組みを少しずつ浸食していくことを無視することはできないだろうかとも思う。

 

それに、もし、香港で降ろされる予定が無いのなら、なぜ本来香港で降りることのなかった積み荷(Terrex)が、なぜ、どうして降ろされてしまったのか、単にライセンス無しなのに、間違った船に乗ったのか(B/Lが公表されてないのでわからない)、誰かの手引きだったのか、詳しく知ることがこの問題の原因と背景を明らかにし、問題そのものを解決する鍵なのかもしれない。