ヘルシンキに到着後、友人と5年ぶりに再会し、この日はその足でSuomenlinna島へ向かった。この島はヘルシンキの市街から船で少し行ったところにあり、皆ピクニックや日向ぼっこに訪れるらしい。そしてヘルシンキを守るための要塞でもあったようだ。
港に接岸すると、島は緑と穏やかな表情に満ちていた。そして歩き始めるとすぐ近くに軍事博物館があることに気が付き、7ユーロ払って行ってみることにした。博物館の中と潜水艦が見れるのだという。
博物館の中にはフィンランドの戦争の歴史、フィンランドがスウェーデン領だったこと、ロシア帝国領だったこと、独立を果たした後のこと、ソ連からの侵攻にイギリスに救援を依頼して、イギリスが約束しても助けてくれずナチスドイツと組んだ第2次世界大戦のこと、そして2回の冬戦争、今もある徴兵制や国連平和維持軍などでの外国への派兵などフィンランドの周辺の厳しい国際環境の歴史がそこにあった。
使った戦車や塹壕、そして機雷などの模型もあった。人力で引っ張る大砲など、厳しい冬にこれを使って戦うなんて凄いと思えてしまうようなものも多かった。
博物館の外に出ると今度は試行錯誤して潜水艦を目指す。日本のものに比べると小型の潜水艦で、小さな船体に魚雷タンク、動力、計器類、乗務員用のベッド、そしてキッチンなど盛りだくさんだった。2次大戦中の潜水艦で、厳しい戦いの様子が思い浮かばれた。
そしてしばらく散歩をすると、スウェーデン時代にロシアからヘルシンキを守るための砦や大砲などがそのまま展示されている。城壁の裏側には兵士が通るための通路が穴によって作られており、火薬庫や弾薬庫なども沢山ある。そして大砲はバルト海に向かって設置されていた。

(島から見たヘルシンキの街)
そんな今ではフィンランドは福祉国家だ。友人に今話題のBasic Incomeについて訊いてみた。彼は歩きながら「でもそれって失業保険でしょ。昔からなかったっけ? 福祉はかなり充実してるよフィンランドの良いところは学校は無料でそれで今も学校に行けるし、公共の医療は無料だし、でも歯医者は半年待ちになっちゃうけどね。」ということで、かなり福祉は手厚い印象だった。
「いいなー。働きながら学校行けるのはいいよね。日本だと残業とかなんとかで行きたいけど行けないからスキルアップできない人沢山いるしね。」
みたいな話をしながら歩いていた。因みに私立の歯医者だと並ばなくても良いらしいのだが、その点は歯医者にも使える日本の社会保険は優秀らしい。
このあと、ヘルシンキ大聖堂(Helsingin Tuomiokirkko)を見に行った。母の日コンサートが行われていて中には入れなかったが、ヘルシンキ市民の日向ぼっこスポットになっている壮大な階段と広場を見ることができた。やっと待ちに待った夏の訪れという感じのようだ。

次の日、少し肌寒いが心地よい。綺麗な石畳を歩きまた市街を散策する。平日の昼間、駅前を歩いていると南アジアっぽい物乞いなどを見かける。彼らは手を出して「施しを」とか「お金くれ」とかやるのだが、南アジアからヘルシンキまで旅費も掛かるのにワザワザ乞食をしに来ているので、道理に合わないというか不自然な現象のように感じる。
そして駅のバーガーキングに入ろうとしたとき、一人の男に話しかけられる。「腹が減ったから金をくれ」と英語で書いてある紙を持って「Give me money」と言ってくるのだ。とりあえず2ユーロだけ渡すと、財布の中にある50ユーロが目に入ったらしく、もう一人の英語が若干通じそうな物乞いも来た。「just give me your 50euro, because me and my friend need go back to Tampere.」と言う。もちろん拒否した。「タンペレに住んでるんだ。じゃあパスポート見せてよ。住んでるなら福祉が受けられるかも。」と言ってパスポートを見せるように要求すると、「今荷物はあっちの方にあって…」とか言ってはぐらかす。
パスポートは見せられないらしい。不法滞在?と思った。
しばらくその男の様子を見ていると他の地元民にも金を要求していたが、拒絶されるとサムスンのスマホを取り出し地下へ消えていく。そのすぐ後に警官が現れた。奴を追って、男が電話している後ろに立ち、電話が終わった後で、「お金持ってるじゃん」と言うと、「でもこれヒビが入ってて」とか言っている。
たぶん彼らはプロの乞食なんだと思う。金のためなら嘘でもなんでもつく。自分がインドで経験したものと一緒のはずだ。場合によっては後ろに裏社会が絡むBig Businessにもなっているだろう。
ただ、どちらかというと彼らが英語も勉強せず、難民認定も滞在資格も持たないで乞食を他国でする行為に苛立ちを感じた。フィンランドだって冬戦争を2回もやって、過去決して楽な国ではなかったはずだ。地元民の努力によって築き上げられた豊かな社会を、自分の金欲しさだけに他国から来てかき回す神経は信じられない。
そのような感想しか思い浮かばなかった。物乞いが可哀想なんて感情はインドに捨ててきたような感じがする。インド人っぽい彼らか何者かということを理解していないのかもしれないからかもしれないが、嘘つきは信用できない。理由は単純、嘘つきを信用すると身を滅ぼすからだ。
Basic Incomeについて
私は国がBasic Incomeを導入するにおいて、必要なことの1つに社会環境があると考えている。例えば日本でBasic Incomeが導入されたところで、現状でも「生活保護をパチンコに使うのは是か非か」みたいな下らない議論が行われているが、「社会保障を正しい目的で使う」と考えるなら是とは言えないと考えている。フィンランドのBasic Incomeは2,000人の失業者をランダムに選んでの実験段階で「利用者が何に使うか私にもわからない」と担当者も述べている。
実はフィンランドにもカジノがある。しかもアクセスは意外と容易く駅の近くだ。カジノに入ると前にはフィンランド人の若者がいて、IDカードを見せて登録フォームを書き、写真を取られていた。そしてカジノに入場するチケットが発行される。
ふと脇に目をやると、ギャンブル依存症相談センター のカードがあり、電話で相談窓口が設けられているらしい。そしてカジノや賭博業の開設には免許が必要だ。
昼間なので客は疎ら、どちらかというとロシア人や、どこからともなく中国人、そして数人のフィンランド人と言う感じだった。まだ明るい夜7時にも行ってみたが人で賑わっているということは無かった。
そしてフィンランドのカジノ運営団体や宝くじがその収益を社会福祉に回していて、宝くじに至っては74%近くを社会貢献に回しているらしく、そのため国民の支持もある程度あるようだ。
ギャンブルよりもどちらかというとお酒の問題の方が大きいらしく、ちょっとアル中気味の方が多いらしい。ヘルシンキ市内のBarに行って、昼間から酒を飲みながら話を聞いた。お客さんは少数ながら昼間から飲んでいる人はちらほら見かける。
Barの店員さんに、オーストラリアには酒を売るためには個人がライセンスを取得しなければならないのだけど、フィンランドでは酒を売るためのライセンスってある? と訊くと、「よくわからないわ」という感じだった。
そして、たまに立てなくなるまで飲む人っている?と訊くと、「たまにね。見かけるわね。」という感じだった。酒は1杯安いので5ユーロくらいだった。スーパーだともっと安い。
ちなみに滞在中泥酔して駅のホームに寝てる人は見なかった。
そんな彼女にBasic Incomeについて訊くと、「まぁお金貰ってても働くんじゃない。」「良いと思う」みたいな感じで「でもそれって今社会実験してるやつでしょ」と良く知っているようだった。
制度自体については前向きに考えている人が多かったので、「全部酒につぎ込むから不味い」みたいな意見は無かった。
Basic Incomeにはギャンブル対策も、Misuse対策も必要に思えたけど、一番必要なものは社会の構成員を信用できるということと、これを言っては元も子もないが、それなりにちゃんとした「民度」なのだろうと思う。
Basic Incomeについては日本では様々な問題の解決が期待されているようだが、フィンランドでは失業率の改善と言った公表されている目的がある。
その背景にはUnemployment benefitを受けている状態から、短期間の仕事や就業時間の短い仕事に就くことに対してNegativeな感情があるのだという。それはUnemployment benefitからそのような職業に就くと、収入が物凄く減るので、就業後もBasic Incomeを支給することによって「就業を加速させ、失業率を改善させること」にあるようだ。
日本人の一部のように「働かなくていい。やったー」とかそういうことはフィンランド政府は期待していない。しかしながら、求職者や失業者のストレスが軽減されたという話もあり、利用者の視点からはちょっとよくわからない部分もある。ただし、無料で学校に行けるとか、そういう部分とセットで雇用を加速させられるのかなという感じもあるので、これをそのまま日本に当てはめて良いのかなという点も疑問だ。
そして日本では「人間は本来社会的な生き物で働きたい云々」とか哲学的な話に突入したり、Basic Income無しでも本来対処しなければならないはずのブラック企業の淘汰をBasic Incomeに期待したりしている人もいる。それはやってみないと分からない話なのだろうと思うが、Basic Income導入への説得としては良いのかもしれない。その他に外国人に支給され、日本人に支給されず飢え死を招く生活保護制度や年金制度など、現行の制度の不透明感と、それに対する不信感から来る諦めから、全部Basic Incomeの方が良いという意見もある。
ただし、フィンランドに比べると解決すべき問題の根本がかなり異なり、フィンランドの事例は参考になるだろうが、フィンランドのものであって、完全に日本のものではない。日本でいろんな人が思考をせずに思いをぶちまけると言った状態から、日本がどのような社会を志向し、何を目指すのかという部分がいまいちわからないので、フィンランドの事例を参考にする前に、おそらく少子化などの「対処すべき問題」と「解決のためにどのような制度設計が必要なのか」という議論が必要なのでは考えられる。
そして日本でBasic Incomeを勧めるための理由は不誠実や不公平、そして無関心の結果といったあまりに寂しいものであるのが気がかりだ。
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