列車の時間は14時くらい、などと余裕をぶっこいて10時くらいに起きた。ただリガのホステルを調べたり、ブログを更新したりで結局遅い出発となった。13時ごろ、駅ナカのレストランでカフェラテを頼んだ。この東ヨーロッパ独特のカフェラテが結構好きだったりする。女性の店員さんとしばし雑談する。「日本人は来るけど、隣の列車に乗り換えてリガに行くわ」と言って肩をすくめた。

 列車の本数が少なくて閉まるのが早いせいか、「Do you want to eat something? We have soup.」とスープを進められる。「I’m already full, but can I borrow it?」とレンジを指さす。英語が変になっていることに気が付いた。

 店員さんはニコッとしながら「Of course」と言って、スーパーで買ったハンバーガーを温めてくれた。丁寧にお皿に出してくれる。もとの袋に入れてほしかったりしたのだけど、なんだか申し訳なくなってきて、素直に頂いた。

店員さんと自分の二人だけしかいない店内、食器を洗う音だけが空間を支配していた。新聞に目を向けると、木造の古びた家の写真にエストニア語で見出しが入っていた。店員さんに「インターネット使って良い?」と訊くと、「Of course you can」と言い、「12345678」と書いた紙をくれた。

Google translateにアルファベットを打ち込み、英語に変換すると、どうもエストニアのValga地方では、空き家が放置されている問題があり、廃墟になっているそうだ。なんだか日本の地方を思わせる、そんなニュースだった。

タリンのような、おとぎ話に出てきそうな美しい街という感じではなく、国境の街は現実で支配されていた。この街でもボロボロの木造の家や、隣の家屋を解体して剝ぎ取られたような跡の残る集合住宅を目にしてきた。ハンバーガーを食べ終わり、店員さんに別れを告げると、店の扉の所まで見送ってくれた。

 Valkaのホームに入ってきた列車はラトビアのディーゼルカーだ。顔はソ連時代を思わせるゴツそうな車体だ。ここは国境の街だが、代表駅はValgaなので、ラトビア側半分のValkaの住民もエストニアのValga駅からラトビアの首都に向けて出発する。

 話を聞くとこのディーゼルカー、旧ソ連顔だが、ラトビアのリガ生まれらしい。リガの工場は旧ソ連の主要な車両工場の1つだったので、リガを走っている列車はほとんどリガ生まれということだった。

 昔はエストニアやロシアでも走っていたが、今はウクライナやラトビア、そして以前はキューバでも兄弟が走っていたらしい。エストニアではエンジンが効率の良い西ドイツ製に積み替えられて、エンジンルームがスカスカで走っているなんて話も聞いた。

 まぁ鉄道ネタはこんなところで列車に乗り込む。若い女性の車掌さんが迎えてくれる。Does it go to Riga?って訊くと、駅のレストランの店員さんと対照的な無愛想でYeah?(それが何か?)って感じで言うので、そのまま座って出発を待つ。旧ソ連製の列車でもWifiが付いているのはすごいと思う。しかし、インターネットをしていると酔う程度には設計が古いと思われる。

 列車が出発すると改札が始まる。若い車掌さんは自分の切符を発券する時、レシートのような切符を出してくれる発券機が紙つまりを起こして、発券機をリクライニングシートに置き、列車の揺れに押されつつ、ちょっと焦って苦笑いしながらレシートロールを直していた。「大丈夫?」と訊くと、微笑みつつ「今日が3回目なんだ」と言った。切符は5.6ユーロだった。

 モニターをずっと眺めていると、なんだか気持ち悪くなってきたので、車窓に目を遣る。ひたすら針葉樹の森の中を列車は走っていた。ときおり、スラブ文字の入ったタンク車とすれ違う。

 プラットフォームが無い駅、人が住んでいなさそうな森の中に停車、どこからともなく人が現れ、おばちゃん車掌さんが〇を書いた札を出して発車の合図をする。

 新入り車掌は、人が疎らなときは女性のベテランっぽい車掌に促されて、切符を発券しに行っていた。暇なときは座席にもたれて車掌さんも丸くなる。駅間の距離は長い。

 雨が降り始め、空は曇天に、あと2時間の列車旅、この瞬間が永遠に続くような、そんな空気が流れていた。窓には雨粒が伝い、その流れとディーゼルの唸りだけが、確かに列車が前に進んでいることを教えてくれた。

 

 

 

 

 




 

 

 

 

 どうやら意識を失ったようで目が覚めると、列車は森の中を走っていたが、いきなり線路が合流して増え始める。客の数も多く、座席はほぼ埋まっていた。放棄されたような灰色の工場と、灰色の貨車を引っ張るソ連スタイルの機関車、そして列車は大きく曲がると、リガのシンボルが見えてくる。

列車はリガに到着した。色々な音が交差する東ヨーロッパで一番大きな街に、虹が掛かっていた。