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 前回はオランダのユトレヒトのベーシックインカムがReview段階と言う話をしましたが、実は既にReview結果が出た国もあります。それは…イランです! しかし、オランダと違ってBasic Incomeによって何らかの問題を解消しようとしたわけではなく、Universal Basic Incomeに近いものと言えるのではないでしょうか。

レポートを見ると非常に細かい、でも端的に言えば、下記の結果が出たそうです。

1;ベーシックインカムを導入しても労働需要(働きたい!)というのは変わらない。

220代の若者の労働時間が減少したが、それはベーシックインカムによって現金収入ができたので、それを進学に充てたため。

ということでした。つまりベーシックインカムを導入しても人は働き続けたということでした。

制度の歴史は2011年に燃料補助制度の大幅減額の代わりに国民の平均収入の29%を現金で補助するという制度が導入されました。日本の平均収入は2017年度で420万円でしたので、年収にして121万円が補助されたということでした。月収にすると10万円くらいで、日本で増税なしでできる額(山崎 元教授曰く5万円…)に比べても高いですね。そして、この水準にも関わらず全ての世代で労働需要にこの制度が影響を与えた証拠は見つからなかったそうです。

使用されたデータはイラン統計センターが集めたもので、Djavad Salehi-Isfahani氏Mohammad H. Mostafavi-Dehzooeifrom氏が調査した結果を下記のレポートに纏めています。

http://erf.org.eg/wp-content/uploads/2017/05/1090.pdf

上記のはすごいちゃんとした報告書でBasic Income開始前の2010年との比較をした方法や、関連する数式などいろいろ細かく記載があるので、わかる人には見てもらいたいなと思っています。イランの貢献に感謝したいなと個人的には思っています。

実はこの制度が始まった年にカナダのManitoba, Dauphinという街で1974年から1979年にMincome, Guaranteed Annual Income(GAI)について実験が行われました。ただオイルショックと言った政治的に不安定な時期でもあり、最終的にはUniverse health Insurance(日本で言う国民健康保険的なもの)の導入もありGAIの導入はありませんでした。

この試験の背景には「国民の健康問題の原因として『貧困』に着目しており、貧困を撲滅すれば国民は健康的な生活を送れる」と考えたのが始まりで、それが北米でのGeneral Annual Incomeというアイディア、今でいうBasic Incomeのようなものに繋がっています。

市民全員にIncomeが支給された点は似ているのですが、収入があった人は1ドルあたり50セント減額されたりしていて、収入額に応じた調整があったようです。日本でBasic Income導入された時も財源の問題からそのようになると思います。このManitobaバージョンが、Mincomeという認識で良いと思います。

これについての報告書をしばらくしてからUniversity of Manitobaが出していて、オンラインで見ることができます。

http://public.econ.duke.edu/~erw/197/forget-cea%20(2).pdf

対象期間、入院期間は減少し、メンタルヘルスについて内科医と面談する時間も減ったという結果が出ています。国民の3人に1人が鬱病の日本には良いのかもしれません。この街の多くの世帯が農家で、天候に左右される仕事に従事しているため、Mincomeは備えをもたらしたと同時に、人々を憂鬱な状態から救い出したのかもしれないという感じがします。

この試験期間中はイランの例と異なり、労働時間の減少が見られたそうなのですが、ギガジンさんの記事を見た限りだと、これは人々が学業や子育てに集中できるようになったため、ということだそうです。

他にも見る限りだと、Mincome受けていた地域はGrade 11から12にほぼ進級できたとか色々書いてあって興味深いですね。

Basic Incomeによってメンタルヘルスに良い影響があったのはフィンランドでも「ストレスレベルが下がった」的な報告がありましたね。やはり実際にExperimentをやってみることで見えてくることが色々あるのだろう。そしてそれはたまに我々の固定概念で凝り固まった期待を裏切ってくれると、改めて強く感じた次第です。

 

日本ではベーシックインカムは導入されていないものの、働いていない人は多く、その中には年金生活者以外では生活保護を受けている人も居ます。実際、生活保護の受給の理由に鬱病が含まれています。

また、生活保護受給者の自殺についての厚生労働省の資料を確認したところ、生活保護者の自殺の割合は全国平均よりも高く、その原因として精神疾患(鬱病、統合失調症、依存症(パチンコとか酒?)が上がっています。

(自殺者の割合の内、精神疾患を有する割合は66%で、なお、日本の全人口では2.5%で生活保護受給者では15%が精神疾患を有する)

こう考えるとベーシックインカムに比べて既存のシステムの方がひょっとしたら働かない人を増やしてしまっているのではないか、再び働くことより死を選ぶ人さえいるのではないか、と別の疑問さえ浮かんできます。

 

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