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 去年の終わり、IR推進法が施行され、「ギャンブル合法化」とインターネット上やテレビで騒がれたことは、まだ記憶に新しい。当時はシンガポールのようなカジノがあるリゾートなんて言われたものだったが、シンガポールに住んでいた私からすれば、「なんじゃそりゃ?」と言った感想しか思い浮かばなかった。

 





まぁ何を隠そう、一時期仕事のストレスから、カジノへ行く回数が増えていた時期もあり、ひょっとしたら依存症に片足を突っ込みかけていたのかもしれない。

 今日は久々にカジノへ行った。マリーナベイサンズやセントーサなど、シンガポールではカジノは「遊びに行くところ」にある。例えば住宅地に住んでいて、「ちょっとカジノ行くか」みたいな感覚ではいけない場所が多く、立地としての気軽さはそんなに無い。

 MRTに乗って、歩いて、ちょっと大変なところにある。ただ、その分一般市民の生活からは遠いと言った利点があるのも確かで、MRT(通勤電車)の駅の目の前や、住宅地、通学路上にギャンブルの施設が無いのが日本と一つ大きく違うのかもしれない。それに、私の感覚だと、パチンコが駅前にある街に住みたいとは思わないし、外国から来た友人にパチンコだらけの日本の街を案内するのは恥ずかしくて憂鬱な瞬間でもある。

 カジノがあるマリーナベイサンズについて、カジノを目指す。このマリーナベイサンズの中にはホテルやブランド品のお店、そして飲食店なども入っている。こういうのをIntegrated Resort(IR)と言うようだ。

 

 このカジノ、シンガポール国民は入場する前に金を払わなくてはならない。

 カジノに着くと、Condition of entryがあり、シンガポール国民と、永住権保有者は入場料(entry levy)を取られる。入場料を支払って いないと入場料と10万円程度の罰金を支払うことになる。因みに一回の入場料は100ドル(物価水準で1万円くらいの感覚)で、年間入場料は2,000ドル(20万円くらいの感覚)となっている。

 

 カジノは日本のパチンコのように気軽には入れない。「ちょっとトイレを借りに」ということもできないけど、それほど気軽に手に入る娯楽ではないし、その分、依存症のリスクから遠いと考えることもできる。シンガポールの国民と永住権保持者は入る入り口が別になっており、チェックがたぶん厳しい。そしてパスポートや日本では最近できたマイナンバーカードみたいなものだと思うが、国民IDを専用の機械に通して、チェックを行っている。

 本当は日本のパチンコ、競馬、競艇(競馬競艇には行ったことがないのだけど)もこういう入り口を本当は設けていなければならないのだと思うが、パチンコは「トイレを借りられる気軽さ」だ。

 

 

 カジノの中に入ると、私は大小とルーレットしかしていない。大小はここではSic boと呼ばれ、漢字だと、骰寶と書く。一文無しになったら身を切られて、骨をしゃぶられ、最後には骰になるのかも?

 ルーレットは02つのルーレットはあまりない。(000があるもの) 大体のゲームは複数人で1つのゲームをするので、当たる人もいれば、負ける人もいて、機械とタイマンを張るパチンコよりはフェアかもしれないなんて考えている。

 いつも、当たる人と同じように賭けるか、マーチンゲール法で小金を作ってから、好きなように賭けるの2通りだけど、負けるときは負けるし、マーチンゲール法は倍掛け法なので、2→4→8→16→32→64と賭けるが、これで全部当たらなかった場合、既に128ドル(物価で言うと12800)失っているわけで、次に賭けなければいけない金額も、128ドルだ。つまり確実なようで大金を失うリスクがある。「怖いから止めたいけど、止めたら戻ってこない」と考えるので、本当にチキンレースのようで、寒気がしたことがある。

 今日は好きなように賭けて、50ドル無くなってしまった。ちゃんと財布に大金を入れないことによって、リミットを作っておくのが良いかもと思う。銀行カードや、クレジットカードは持って行ってはいけない。持っていくのは地下鉄のカードと、予め決めた金額(今日なら50ドル)だけにしよう。負けたら、マクドナルドにでも行って、「今日は5ドルのフィレオフィッシュセット10個分を失った」と考えて、そのメニューを頼んで効用を楽しむと、かなり冷静になれるはずだ。冷静になれなかったら「ちょっとヤバい」と考えた方が良い。次の日にリベンジを考えた場合も、脳みそがヤバくなっている証拠だ。

 

ちなみにシンガポールには、そういう「ヤバい人たち」のためのプログラムがある。

そして、それをサポートする国営のコールセンターもある。決して規制対象が出資して設立する第3者機関(なんかどこかで聞いたことあるよね)ではない。

 まずは、左側の「Protect your family」というやつは、「Family Exclusion Order and Family Visit Limit are measures put in place to allow family members to protect the family from further harm caused by an individual gambling habits.」ということらしい。ギャンブルというのはhabits,で、癖であり、習慣ということだ。つまり、小さなことから習慣を矯正していき、家族をギャンブルの害から守るのが目的だ。

 本人の意思に関係なく、家族はこのプログラムに申し込んで、ギャンブル依存者のカジノへの入場を規制(limit)でき、プログラムの期間は3週間ということのようだ。

 右側のKnow why We Set Your Limitsというやつは、シンガポール国民もしくは永住者が自分のカジノへの入場を規制できるという制度だが、シンガポール国内のカジノ(Local Casino)へ頻繁に入場している場合、National Council on Problem GamblingということからNotice(お知らせ、もしくは警告…?)を受け取ることがあるようだ。

 で、一緒に置いてあるコールセンターの番号はNational Council on Problem Gamblingというところに繋がる番号で、その下にはカジノへの入場を記録する枠がある。

 このような自己規制や家族のメンバーがカジノへの入場を規制できる制度があるので、カジノの入場の前にIDチェックがある意味というのが解ってくる。

 まぁどんな制度があるってのはおそらくNCPGのページを見ればわかるので、興味がある人はチェックしてほしいけど、何も知らずに「シンガポールモデルの」とか言っちゃう人は必ずチェックしてほしい。上記の制度によって一回1万円の入場料にも関わらず、約20万人が入場禁止となっている。

 

IRにあるカジノとは、詰まるところ…

 観光の名所として外国人向けに作られた場所であり、自国民を入場させたくない場所ということが、こういう制度整備や、入場料の徴収からわかっていただけると思う。実際韓国ではパチンコは廃止になっている。韓国にもカジノはあるが、外国人向けでほとんどのカジノに韓国人は「入場できない」らしい。

しかしながら、韓国にも1つだけ自国民が入れるカジノがあり、「江原カジノ」という場所らしい。

 韓国人の友人曰く、「江原ランドの近くには質屋が立ち並び、質に入れられた車がずらっと並んで壮観だ」とか皮肉を言っていた。カジノ王国澳門でも、質屋が「押車」と看板を掲げて、質に入った車が並んでいて「なんだこりゃ」と思ったものだが、まぁそういうものらしい。「澳門 按押車」で検索するといっぱい出てくる。

 日本でも戦後復興の資金調達に公営競技が貢献していたと聞いた。しかし、調べてみると1991年あたりから、利益が上がらず本末転倒な状態になっているようだ。その時の日本の賭博は、もちろん日本国民向けだった。

 IR推進法が施行されたとき、自民、維新、民主にパチンコも含めた規制について、各党のホームページのフォームからメッセージを送ったものの、まだ返事は来ていない。おそらく党内にいろいろな議員がいて、議員団なんていうのも存在するので、「党として」率直な返答をするのが難しいのだろうと思う。

 カジノのある国に暮らしていた人間としては、自国民向けのギャンブルは「強く、半殺し程度に規制」というのが望ましいのかなと思い、その日は歩いて家路へとついた。

 

 ちなみに海外で「日本ではパチンコは法的にギャンブルではない」というと、

Hey Japan, 冗談はよしてくれよw」みたいなことを言われる。海外から見たら誰が見てもパチンコは「射幸心を煽る何か」ではなく「ギャンブル」、つまり日本人の法知識だとギャンブルは…あとはもうわかるよね?と言ったような感じだ。

 21世紀になり、日本国として、日本国民として、どのように賭博と向き合っていくのか、そういう議論はこれからもしていかなければならないのかなと思うし、今がその転機の時なのかもしれない。

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